長期療養病床と医療職のバーンアウト

 長期医療療養病床は、死に近いようで、実は最も遠い病床だと思っている。

 現在の医療制度では、長期医療療養病床は、ただ入りたい、入れたいだけでは入院できない。厚労省の定めた医療区分があり。その枠に収まる疾患か、症状がなければ対象にならない。

 実際、リハビリテーションの対象にはなっているものの、日常生活活動全介助で寝たきりのケースでは、ゴールはないと言ってもいい。

 退院という目標がない入院患者さんは多い。療養病床においても入院期間は半年を目安にと定められているが、家に帰ることが現実的でないケースでは、寝たきりのまま何十年も入院し続けている人もいる。実際、若くして寝たきりになってしまうケースでは、死はすぐ隣にはいない。

 これは病院に限らず、施設などでも言えるだろう。

 コミュニケーションが取れないケースでは、栄養を入れてもらい、排泄の世話をしてもらうだけの日々が続く。

 コミュニケーションが取れるケースでは、不定愁訴や原因のある訴えが多くなり、医療者の仕事は多い。

 未熟な医療者や、療養病床での経験が浅い医療者が数年勤務すれば、ゴールのない医療にやりがいを失い、燃え尽きてしまうことがある。療養病床のゴールもあくまで自宅復帰、退院を目指すのが本当だと思うが、看護者が家族内で確保できるケースは、今の時代非常に少ない。核家族化、一人暮らしの高齢者が多く、キーパーソンが子供ではなく、同じく高齢の兄弟やその子供の甥姪であることもある。こまめに病院に通い、世話をする親戚もあれば、そこまでは面倒見きれないという親戚もある。

 医療者だけでなく、家族や親戚も燃え尽きる可能性がある。

 これは多くは、負担を少人数で背負ってしまうがために起こると考えている。何事も、一人で抱え込んではいけないのだ。

 

 長期療養病床でリハ職が立てる目標は、経験が浅い医療職が見ると、非常に無意味なものに映るかも知れない。

 二十年ほど前は、リハビリは期限なくできたが、現在は日数制限がある。難病や医師が必要性を認めたケースは続けることが出来るという抜け道はあるが、ハードルは高い。長期療養病床で短期間でリハの効果を出すのは難しい。増してや、退院を目標とするとなると、退院先の施設が求める日常生活活動レベルが必要になる。これをうまく説明できなければ、他職種の協力は得にくく、リハも頓挫してしまう。

 医療職のバーンアウトは、ゴールを設定しにくい患者さんでは起こりやすいのではないかと思う。どこを目標にすればいいのか、わからない上に、変化がほとんどないからだ。

 しかし、身体を動かさなければ関節が硬くなり、着替えが難しくなる。声をかけて刺激しなければ、尊厳が失われてしまう。

 必要なことはわかっているが、やりがいは感じにくい。変化がないということは、お互いに苦痛なのだ。

 寝たきりの患者さんに、温かいタオルで顔を自分で拭いてもらう、というプログラムを行なっていたところ、そんな無意味なことをしないで、下肢の関節可動域運動を手伝えと理学療法士にぼやかれたことがある。

 その人にとって意味のあることとは何か、他者が考えることは難しいが、理学療法士も成果が出なくて焦っていたのかも知れない。

 

 現代のように構成数が少ない家族では、寝たきりの方の看護、介護は難しくなっているが、病院では、勤務交代が可能だ。バーンアウトを起こしかけている職員を見極め、環境を変えることも方法の一つではないか。

 医療に携わる人が少ない昨今、それも難しいのかも知れないが。

 

 人の世話をするためには、足下がしっかりしていなければならない。今その職務を遂行する能力があるかどうか見極める力が、管理職にも、自分自身にも必要だと思う。

 難しければ、早々にSOSを出すことも必要だ。

 一生懸命やるのもいいが、引き際も大切だ。でないと、自分が病気になってしまう。