頑固者のチームワーク

 私が二十代の頃、周囲では『結婚してない人は人付き合いがヘタ』のような認識が多かったように思う。お世辞にも美しいとは言えない容姿なもので、選ばれなきゃしょうがないじゃない、とも思っていたが、月日は流れ、独身の人が増えて、同世代が実際に世間を動かしている中心世代になってきたら、そういう認識も減ってきたように思う。婚活なんて、就活みたいな用語も出てきて、みんな焦っているのかなぁと考えたりもするのだが(あんたが焦りなさいと言われそうだが)友人の独身組に聞くと、意外にのんびりと『今更ねぇ。まぁ、いい人がいればね』という人が多い。私も同様の認識なもので、周囲にいる年下を子供扱いして嫌われたりしているのだが、同世代の同僚には『アンタも結構子供だし』と言われ、ああそうかい、と妙に納得したりしている。この心境の複雑さを分かってくれとは言わないが(笑)

 さて、主題は人付き合いがヘタ。
 コミュニケーションは余り得意ではない。面白いと思う人は何人もいるが、無差別に人が好き、というわけでもない。とは言え、仕事上人と話す機会が多く、その上デスクワークは嫌いと来ているのだから、変に転べば引き篭りへまっしぐらである。ただ、今の時代そんな人は意外と多いのではないかと思う。目を見て話せない人が多くなった。距離が近くなければ、意外と目を見てもドキドキしないものである。とは言え、接近距離1mを切ると、目を見るのはかなりドキドキする。下手すると抱きついたり触ってくるクセがある人がいる。タッチ・コミュニケーションは得意ではないので更にドキドキする。セクハラにはならないものか、こういうのは。同性だけど。

 さて、この二段落を読めば、心理学の研究者とかセラピストなら、こういう人とラポールを築くのは大変そうだなぁ、と思うのではないだろうか。実際私自身そう思う。
 心理学者のユングは、自分の心理を解析するのに随分時間を費やしたそうだが、その内観を具現するために、自宅を増築し続けた。お金持ちでいいなぁ、と思ってしまうが、何十年もかけているのだから驚きである。実際、学者だとか職人とか技術者とか言われる者は、大概自己主張が強いとか、我侭だとか、頑固だとか言われるものだ。先日IT-mediaニュース(11/4)に掲載された富野由悠季さんのトークショーの内容を見ていると、技術者が我を抑えてどうやってチームワークを取っていったのかを垣間見ることが出来る。自分を全て出して、人に認めてもらえることなんて有り得ない。そういう相手にめぐり逢えたのならそれはそれで幸せなのだろうが、きっとその関係は居心地良くてもクローズドな関係で、外へ拡がっていく物ではないような気がする。ユングの自宅と引っ掛けているようだが、一見奇異で閉鎖的に見えながら、徐々に拡がっていく自分というものを表現していく方法として彼は家の拡張と言う手段をとっただけで、決して単なる閉鎖的で理解しがたい学者さんではなかったのではないかと思う。実際、その家を見て彼の心理を分析している人もいるし、ユング自身も家について語っている。

 ほんの数日前同僚にこっぴどく怒鳴られたのだが、どうも取り付く島がなく、暫く放っておくことにした。理解させようとした時点で無意味だったのだと、早く分かれば良かったのだが、気がつけば事態は泥沼化していた。
 その話を別の人にしたら、あんたは喧嘩下手なんだから、挑発に乗るな、と言われる。はい、ご尤も…。