不機嫌なベッド:その2

 入院している人の中には、やたら機嫌の悪い人がいる。症状が悪い訳でもなく、痛みが辛いという訳でもない。

 リハ対象者は、容体は安定しているけど、自宅で生活出来る程ではない、という人が中心だ。

 

 不思議なことに、女性の方が自立心が強い。男性は「やってもらって当たり前」傾向が強い。恐らく社会的背景や生育環境の違いからくるのだろう。

 よって、認知障害がない限り、女性の方が我慢強く、退院が早い。

 認知症でも理性のタガには個人差があるので、全員が全員暴力的という訳でもない。

 

 ここでは認知症でない不機嫌な人の話をしよう。

 やたらナースに楯突き、命令や要望を繰り返し、理由なく他者をこき下ろす人がいる。最初のうちはナースも、一生懸命要望に沿おうと頑張るのだが、一週間も経ってくると、ちょっとおかしいなとなってくる。

 どうも、ワガママが過ぎる。かと言って関わりを止めるわけにも行かない。

 最初は自分だけかなと思っているところに、他の職員にもそうだと、ああ、この人は他者を自分の思う通りに動かすために態と不機嫌な態度を取っているのだ、と分かってくる。

 正論攻撃が中心で、「そんなの当たり前だろう」「出来て当然」「そんなことも出来ないのか」「普通そうなんじゃないのか」聞いていると、DVの配偶者のようだが、まさにそんな感じだ。これまでもそうやって人をコントロールして来たんだろう。

 正論攻撃は、責められる方が悪いと思わされてしまうところが問題なので、言われている方は早く気づかなければならない。

 この言葉群を使って他者を思い通りにコントロールしようとする人が現れたら、私は一旦離れることにしている。なんのお説教も説明もせずに離れ、挨拶はするが暫く介入しない。もちろん状況はチームには説明する。

 次回、何もなかったように挨拶に行く。態度が修正されていればそのまま介入、いきなり怒り始める人はまた同じ対処をする。中には最初はフレンドリーでも、途中で色々言ってくるテクニシャンもいるので注意が要る。

 そもそも、入院の目的を履き違えているので、本人にもどうするのか考える時間が必要だと思うのだ。

 医師の言うことなら聞く、という苦笑せざるを得ない人もいるので、対応は人によって変えるが、大体がかまってちゃんなので、放置されると不安になるようで、一週間もすると態度がちょっと変わってくる。

 不機嫌を武器にする人に、結局は自分が損をするのだということを理解してもらうためには、幾許か時間はかかるものだ。コミュニケーションがうまく行かないのに、リハビリの成果が出たりはしないので、少々時間を無駄にしても、自分の立ち位置を確認して頂かなければならない。

 患者と治療者の立場は上下関係ではないということは専門職の教科書には載っているが、治療チームに患者が含まれていることを、患者自身は知らないことが多いのだ。

 協力して頂かなければ治療が進みませんよ、と言っても文句を言っている人は、結局損をする。入院期間は無限ではないのだから、有意義に使ってほしいと思う。