今のうちに

 コロナ下で、世間はややフリーモードに移行しつつあるが、敵もさるモノ、DNAをどんどん組み換えて対抗してくる。

 コロナはワクチンの接種間隔が短いが、そのうちインフルエンザのように一年に一回とかになるのだろうか…組み換えが速いうちはそうはいかないか。

 

 病院はまだコロナ対応なので、余程切迫した状況でないと面会は認めてもらえない。

 面会制限があると外に出る機会も少ないので、天気の良い日は防寒して患者さんと散歩に出るのだが、院内では言ってくれない本音を、開放感からか、ポロッと零すことが多い。そういう所から心理的な膠着状態を突破する方法が見えてきたりする。

 暴言とリハ拒否、介護抵抗はセットでやってくることが多いが、その人もご多聞に漏れずそういう方で、対応する職員は苦労していたが、リハに散歩を組み込み、外へ出て本音が出ないか話してみた。

 会話の取っ掛かりは、大体天気か、その方の家の近くの話だが、その方は近所のランドマークの方向を正しく言え、ご近所ネタにも正しく応じられた。思ったより認知機能は落ちていない。が、特徴的な高次脳機能障害はあったので、活動低下はそのせいかと思われた。

「やりたいことがあるのなら、今のうちにやっときよ」

 会話の中でさらっと言われた一言が、色々含んでいるような気がして重かった。思い通りにならないからストレスが溜まっていたようだ。とは言え、全てが思い通りにならないのは誰にとっても同じことで、それで他者に向かって発散するのは違うのだ。しかし説明したところで腹を立てるだけだろうなと思い、機能障害に特化した練習を続けていたが、ある日「これ、あんたやったら出来るんか」と呟かれた。これは気付きだろう。

「出来ない時もありますが、練習したら出来るようになるかも知れません」「そうか」

 思うところがあっただろうか。程度の差はあれ、少しずつ課題はこなしてくれるようになった。

 

 若かったらなんでも出来る、はその通りかも知れないが、時間がある時はお金がなく、お金がある時には時間がない。「働ける時には遊ぶ暇なかったでしょ」と話すと、その方は「そうだったなあ」とため息を吐いた。

 

 でも、今のうちに、と言われると、働かなくては食べていけないし、やりたいことにはお金がかかる。

 このジレンマをずっと抱えていかないといけないのは、少数を除いて同じだろう。

 とかなんとか言ってるうちにもう2022年も終盤だ。ほんとに時間が経つのが速い。今のうちにやりたいこと…大掃除?

 

 なんか呪縛にかかってる気がする。