抗がん剤開始

 退院後一ヶ月。

 後療法ということで、抗がん剤が処方された。

 ゼロックスという、コピー機みたいな名前だが、ゼローダという錠剤と、エルプラット(オキサリプラチン)という点滴との組み合わせである。

 副作用の説明を受けたが、その症状はここに書ききれないほど多い。ほぼ100パーセント必発は、感覚障害だが、この感覚障害がただの痺れだけではない。

 点滴1回目。なんの症状もないと思っていたが、帰宅してから、ひどい症状が襲って来た。

 冷たいものや、水に触れた時のなんとも言えないビリビリ感。心の準備ができていないので驚く。手足末梢のしびれ、胃の不快感。もともと食べられていないのに更に食べられなくなった。起きられない。

 二週間錠剤を飲み、二週間休む。そしてまた点滴。

 食事は全く摂れなくなり、栄養点滴を受けに行った。

 何も食べてないのに嘔吐、胃の痛み、手足のしびれ。

 目の症状はほとんど出ないと言われていたが、ある朝目を開けた時、目の前が真っ暗で、しばらくするとカーテンが上がるように明るくなっていった。この症状が進んで行ったら、どうなるのか。

 

 食べられないので体重は増えない。体力がなく、動けないので筋力もつかず、寝ているだけで体が痛い。どんどん衰えて行くのがわかる。

 これは無理だ、と思った。

 

 3回目の点滴の日、主治医に抗がん剤をやめたいと伝えた。

 目が見えなくなると困る、このままだと食事もできないし、人間として生きていけない、と。

 主治医は「仕方ないね」と言った。

 例えは悪いかも知れないが、ブラック企業を退職できた時の爽快さってこんな感じじゃないのか。

 

 このあと、論文検索をしていて見かけたのが、3クールでも抗がん剤は効果がある、という論文。減量しても大丈夫、という論文が意外だったので、もう少し頑張っておけばよかったかな、とも思ったが、喉元過ぎれば熱さ忘れる、だ。あの苦しみを忘れないためにも、どんな症状があったかしっかり書き留めて覚えておかないといけないと思った。