抗がん剤の副作用は、服用をやめてからも続いた。
手足の痺れ、舌の痺れ、味覚障害、水や冷たいものを触るとびりびりする、胃の不調で食べられない。体重はまったく増えなかった。
実施前に受けた副作用の説明では、最初の何回かはそれほど気にならないが、5回目、6回目になると症状が強くなり、ものによっては恒久的に残るものもあるということだった。
オキサリプラチンは、プラチナ製剤である。プラチナががん細胞に他の細胞よりは取り込まれやすい、ということに着眼し、プラチナが細胞を殺す仕組みを利用している。当然、健康な細胞もやられる。特に、感覚細胞に影響が大きいことから、手足末梢や舌、粘膜に感覚障害が現れる、ということらしい。
外傷で起きた末梢神経障害は、時間が経てば治ることが多い。一方、脳血管疾患の感覚障害は、元々の感覚神経が全廃の場合は恒久的に残る。
抗がん剤の感覚障害は、末梢神経障害なのか?それとも、中枢神経障害なのか?
仕組みを考えると、末梢神経障害のようにも思える。しかし、点滴は直接血管に入る。血液脳関門を超えていれば、中枢神経障害とも言えるのではないか。
末梢神経障害にしても、中枢神経障害にしても、軽く一年以上は症状が残るケースが多い。
薬剤には半減期というものがある。体の中から薬剤が消えるまでの時間、それから後の副作用が改善するまでの時間。
単純計算で薬剤の影響が少なくなるまでに3ヶ月。そこから副作用が消えていくまでに一年以上はかかるか…試算して絶望的な気分になった。なぜなら、体調が戻れば仕事に復帰したい、そんな計画を頭の中で立てかけていたからだ。
一年も休めるか?
そんな杞憂は後で一気に吹き飛ばされるのだが、これはまた後でまとめて書こうと思う。
抗がん剤をやめたのが8月の中頃。
気温の高い9月、10月は、水と冷蔵庫にさえ気をつければ、歩いたり、物を持ったりするのには支障はなかった。味覚障害があるので、うどんのつゆもうまく作れない。
11月。手足の痺れは夕方頃のみ起こるようになり、味覚障害や舌の痺れは減っていた。胃の不調は残っていたが、食事は摂れるようになっていた。長袖を着るようになって、服と体が擦れるとビリビリすることがあったが、これも徐々に慣れて行った。
12月。感覚障害は気にならなくなり、時折ピリピリすることはあったが、日常生活に支障はなくなった。
結論として、抗がん剤全行程をやったわけではないので言い切れないが、副作用の感覚障害は末梢神経障害と考えていいのではないだろうか。5クール、6クールやっていたら恒久的な障害が残ったかも知れない。
決して標準治療を否定するわけではないが、私には合わなかった。がんの魔手から逃れ、命が助かっても、体がいうことをきかなければ、生きていても仕方ないと思ったのだ。