バス

 久しぶりにバスに乗った。

 日々、体力が回復していっているのか、今日は出かけても疲れなかった。

 帰りがけ、私が乗ろうとしていたバスに、車椅子の高齢男性と奥さんが乗ろうとしていた。どうぞ、と言ったが、最後に乗るので、と奥さんに言われ、先に乗った。運転手さんが降りていったので、大丈夫かと思っていたが、周囲の乗客が「あれ助けないかんのちゃうの」と言い始めたので、振り返ると、車椅子から降りて男性がバスに乗ろうとしていた。

 そこで一旦声をかければ良かったのだが、悲しいかな、とっさに介助の手を出してしまった。

 男性はうううううー、と呻き声を上げた。あ、自分で行けると言っているんだと気づき、自分で行けるんですね、ごめんなさい、と言って手を離した。奥さんが後ろで、一人で乗れるから、大丈夫、と言っているのが聞こえた。

 かえって悪いことしたなー、変なところでプロ根性出すんじゃなかった、と、一声かけられなかった自分を恥じながら座っていると、後ろから男性が、「ありがとう」と声をかけてくれた。

 何もしなかったんだけどな、と思いながら、いいえ、と答えた。

 いつもみている入院中の患者さんの場合は、状態がわかっているので、危ない時はとっさに手が出ることはあるが、バスに乗ろうとしている人は一人で動けることが多い。いきなり手を出してはいけないなと反省した。

 

 なら、知らん顔してればいいのかというと、それはそれでモラルを問われそうだが。