戦闘開始

 術日2日前。

 大病院に転院し、手術の説明を受ける。

 診断を受けてから1ヶ月超、いよいよこの時がやって来た。

 診断されたときは、悪性なのか、なんなのか、取ってみないとわからない、と言われていたが、いやいや、周辺臓器に転移しているガンが悪性でないわけがない。

 それにこんなに痛いのに。

 コロンファイバー(大腸内視鏡)の時に、腸壁が薄くなっているから破れるかも、と内科の先生が言っていた。どうやら破れずに1ヶ月もった。

 

 手術の内容の説明を受けた時はかなり絶望的な気分になった。

 切れますよ、とさらっと言ってのけた外科の先生は、インフォームドコンセント(説明と同意)の用紙に、内臓の絵を描き、大腸を3箇所切ってくっつけ、浸潤している周辺臓器の一部を切り取って、膵管をつなぎ直す、と、これまたさらっと説明してくれた。

「10時間かかります」

 えっ。

 10時間。朝9時に開始して、7時終了。この間まな板の上の鯉。

 実は小学生の頃全身麻酔の経験がある。あれは目覚めた後の頭痛が酷い。

 当然全身麻酔だし、しかも10時間。

 しかしこの時、切るという事実よりも、10時間かかるという事実よりも、不謹慎ながら思ったことがあった。

 裸で10時間ベッドの上、辛いな…。

 そして、長期間の術前入院で、筋肉が落ちてしまったことで、臀部の肉がなく、横になると仙骨部がかなり痛かった。

 恥ずかしいのを覚悟で、看護師さんにお願いした。

 褥瘡になると困るので、術中術後、お尻にクッションを入れて欲しいと。

 看護師さんは真面目に聞いてくれて、術中も術後もきちんとフォローしてくれた。

 この時点で、体力減退はピークだったので、入浴もお断りして体を拭くだけにし、ただ只管寝ることにした。本当は清潔にする意味でもお風呂には入った方がいいそうだ。

 

 この術前に、万が一のことがあっては困るので、恩師に連絡を取っていた。

 恩師はお守りを持って見舞いに来てくださり、励ましてくれた。

 

 もう、任せるしかない。

 覚悟が決まったのか、開き直ったのか、ただ痛いだけだったのか、今となっては、余り覚えていない。

 人は嫌なことは早く忘れるものらしい。