手術日

 手術は、朝の9時開始だった。

 術着に着替え、朝から横になっていた。

 実は、この日のことは余り覚えていない。

 手術中に万が一のことがあってはいけないので、家族は二人以上院内にいて欲しいということだったが、都合の合う家族が一人しかおらず、いとこに来てくれるよう頼んだ。転院前も心配して駆けつけてくれたいとこは、仕事を休んで来てくれた。

 どちらかというと、自分よりも待っている家族の方が気になった。

 

 手術室はそんなに広くなく、麻酔の先生と看護師が数人いるだけだった。執刀医の先生はまだいなかった。改めて手術についての説明と、書類へのサインを求められる。

 え?ここでサイン?この期に及んでまだサイン?

 もうほとんど何も考えられない頭で書類にサインをし、横になる。

 背中を切って、脊椎に針を刺し、麻酔をかける。術後、痛かったら自分でボタンを押して麻酔薬を注入するらしい。看護師のいとこが、「がまんしないでガンガン押しなよ」と言っていたが、どうやら30分に一回しか押しても出ないらしい。

 麻酔が効いて来る。一瞬で意識はなかった。

 

「はい、終わりましたよー」

 10時間経ったなんて意識はない。麻酔から覚めたら強烈に寒かった。

 痛い、寒い、なんだこれ。

 何かに縛られた手は全く動かない。文字通りガタガタ震えている。

 寒い寒い寒い。

「寒い」と言っているが声は出ていない。よく見るとまだ肌が露出しているところもある。

ICUに行きます」

 状態が良ければすぐに病室に戻ると言われていたが、ICUとは。

 寒い、と言っている声がやっと聞こえたのか、毛布をかけてくれた。

 痛みと寒さ、寒いのに汗だくで、目も開けられない。

 手は縛られたまま、足にはメドマー(血栓予防のためのエアマッサージ機。商標名)がついている。寝返りもできない。

 頭ははっきりしている。周囲は他の患者の対応でやたら騒がしい。眠ることもできない。

 手元に麻酔薬のボタンはあるが、押すこともできない。

 数時間すると声が出るようになった。

 二時間おきに看護師さんが来て体位交換をしてくれるが、傷だけの痛みでなく、全身が痛かった。臀部にはクッションが入っている。

 見回すと、数本のドレーンが視界に入った。

 何本あるんだ、これ。

 その時ははっきりわからなかったが、5本くらい繋がっていた。

 

 このドレーンが後々悩みのタネになる。

 すぐ外れるものだと思っていたが、とんでもなかった。