身体を動かすには

 特に何かしたわけでもないのに肩が、腰が、と仰る患者さんが来られる。

 そう言う方は身体の動かし方を少し教えると、ああ、楽になりました、と帰られるが、本当の意味で身体を鍛えたわけでもないので、感覚的なものだろうなと思う。

 リハ理論には感覚に着眼したものが多くあり、それらのいくつかも学んできたが、実際に脳が気が付かなければ、身体は思うように動かないものだ。脳梗塞脳出血では脳の可塑性に多く期待できるが、進行性の病気では時間との戦いのような気がする。いずれにしても、動いて感じなければ身体機能も認知機能も落ちていく。

 本物の廃用症候群では、とにかく起こす。話しかける、動く気にさせる。本人が拒否する場合は非常に難しい。

 こちらは善意でも、対象者にとっては大きなお世話の場合もある。ニーズが分かっていても、笑顔で「無理」と言われると、心にぐさっと来るものだ。特に、余命幾ばくもないと推察される場合は、もう寝かせといてあげようよ…と心の声がこだまする。

 寝たきり生活を一度でも体験すると、動きたくない気持ちは身に染みて分かる。明日死ぬかもと思う気持ちも。

 そう言う時は、誰にも拘られず、ぼんやりしていたい時もある。声をかけてもらって、ほっとすることも。

 でも、それだけでよくて、動きたくないのだ。そこから気持ちを振り絞って起き上がるには、随分な気力と体力がいる。

 何よりも、明日も生きているだろうと言う展望がいる。

 自分が自分であって、明日もそうであると言う確信がなければ、動くのは難しい。

 そこから考えるのは、身体が動かない人には難しいだろうなあ…と、寝たきり経験者は思う。