リハビリ:自宅復帰のハードル

「歩けてトイレに行けるようになったら家で面倒見ます」

 入院当初にご家族からよく言われる言葉だが、これが結構ハードルが高い。

 我が恩師は「歩けなくても帰れます」と良く言っていた。家族が援助すれば、と言うことだ。日本でのFIM(日常生活活動の評価尺度)の研究には、介護者の有無が自宅復帰のハードルを下げるとしている物がある。公的援助だけで家で生活を継続するのはどう考えたって難しい。しかし、家族の援助にも限界がある。

 認知がある程度保たれていて、運動機能のみが低下している例ではトイレに行けるようにまでなれる人が多いが、これが家族には意外だったりすることがあるようで、退院前に驚かれたりする。生活習慣の問題なのだろう。家族は中々当人の身体機能まで面倒は見切れない物だ。

 

 運動機能が保たれていて、認知機能が低下している場合は、運動機能が歩行可能レベルまで回復すると、徘徊高齢者になってしまう。エレベーターで勝手に降りちゃった、無断離院しかけた、なんてことは退院前に時々あり、入院、入所中でも管理が大変になってしまう。

 実習中、施設の事務所に顔写真が貼ってあり、この方々を屋外で見かけたら連絡を、と書いてあった。徘徊の常習者らしい。多くの目がある施設でこうだから、家ではもっと管理が難しくなる。

 そしてこういう方の中にも、トイレに一人で行けてしまう方はいらっしゃるのだ。安全かと言うと、全くもってそうではない。転倒、事故リスクは非常に高い。

 問題解決能力が低下している方に関しては、常にあらゆる危険が待ち構えている。今までの生活を続けたい家族と本人には、自宅復帰が一番の目標だが、そこはゴールではない。

 認知症高齢者が自宅で暮らすハードルは、介護保険だけ下げることは出来ない。トイレに行けるだけで退院するのは、家族の負担は思いがけず増やすことになる。