作話と取り繕い

 何方も認知症の症状である。

 作話の方は全く根拠のない話をするので見抜きやすい(と私は思っている)が、取り繕いの方はうまいこと話を合わされると騙されそうになる。と書くと人聞きが悪いが、本当に上手い人もいる。自身では本当だと信じているので信憑性が高くなるのだろう。

「ええ、ええ、本当大きくなられて、ご両親はお元気ですか?」

 この患者さんが私のプライベートを知っている訳がないので、答えずさらっと流しておく。まじめに答えなくても別に怒りだしたりはしない。

「お姉さんはどうされてるんですか?」

 ええ、元気ですよ、リハビリ行きましょうか、と取り繕いに付き合いながら一通りリハビリを終える。反論しても別のシチュエーションを準備してくるので、言い返しても意味がない。

「いいお仕事に就かれて、ご両親も安心ですねえ」

 そんなことないですよ、と謙遜しながら、こう言う時はちょっと痛くても我慢してくれる。

 そのうち顔も覚えて貰えて、何の説明もなくても素直について来てくれるようになるが、どの方も、その度に私は先生だったり職場の同僚だったり、親戚の娘さんだったりするが、困るのは関係の近い人と間違われた場合である。

「こんなところに閉じ込めて、早く連れて帰ってよ」「そんな子に育てた覚えはない」とか罵詈雑言を浴びせられる。(心の中で、育てられた覚えもないけど、と呟いているのは内緒だ)

 近親者は文句を言ってもいい対象なのは、認知症になっても変わらないようだ。