理学療法

 術後約二週間。

 リハを生業としている人間が、リハビリを受けることになってしまった。

 術前にかかりつけ医に「大きい病院で勉強して帰っておいで」と言われていたが、私の職業を知っている執刀医は、さすがに自分でなんとかすると思ったのだろう。歩かないと、と言いながらもリハの処方は出ていなかった。しかし、自分でもこんなに動かないのかと思うくらい動けなかった。

 傷も痛い、寝ているから身体中痛い。どこを向いていいのかわからない。寒い、暑いの繰り返し。

 このまま動けないのではないかと本当に思っていた。

 

 ベッドサイドに来てくれた理学療法士は、話し上手なとっても優しい人だった。

 がんの急性期リハビリテーションの目的は早期離床、早期歩行。プログラムは基本的な可動域訓練と起居、立位練習から開始した。この時点で、起居も介助がいる状態だった。体を捻ると傷が痛い。長期臥床のせいで筋力もなく、立つときに足が震え、妙な感覚が走る。自分の体ではないようだった。

 

 お互い専門職なので、専門用語が飛び交い、色んな症例の話をした。長い間仕事を離れていたので、リハの時間は楽しかった。受ける側だったけど。

 

 その日から退院の前日まで、病棟歩行→リハ室までの歩行器歩行→歩行器なしの点滴棒頼りの歩行→支持なし歩行→筋力増強訓練→エルゴメーター→階段昇降、と段階を上げていった。退院前日もまだ膝折れを起こしていた。これが自分ではものすごくよく歩けるようになったと大勘違いをしていたことが、退院してからとんでもない事態を引き起こした。

 道路を渡るときに走ろうとして、ど真ん中で転倒、起きることができなかった。見通しのいい直線道路だったので、自動車は止まってくれたが、もし轢かれていたらと思うとぞっとする。

 走ってこけるなんて、どんな体なんだ、とがっかりしながら、とにかく食べるしかない、筋力をつけなければ普通の生活には戻れないと思った。

 

 自分の体のことは自分ではわからない。

 ということは、つまり、そういう人は結構多いということだ。

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